通信障害対策のポイントは「ネットワークの冗長性」
~複数SIMの自動切替で実現する方法~

ネットワーク冗長化のイメージ
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近年、大規模なセルラー通信や携帯電話回線の通信障害が社会問題となっています。いわゆる大手の3大キャリアでも全国規模の大規模な通信障害はたびたび発生しており、ソフトバンクでは2018年12月に約2060万人、ドコモでは2021年10月に約1290万人、au (KDDI) では2022年7月に約3090万人のユーザーに影響を及ぼす通信障害が起き、音声通話が繋がらない、データの通信速度が非常に遅くなるなど、人々の日常生活にも大きな影響がでました。

通信の仕組みが複雑化する中、このような通信障害を受け、各事業者が備えを検討するケースも増えてきています。特に高速通信が普及し、様々な機器を通信でつなぐIoTが幅広い産業分野で今後さらに普及する中、このような通信障害に対する備えはますます重要になっています。

今回のコラムでは、このような大規模な通信障害に対策する上で重要な「ネットワークに関する冗長性」をテーマに、通信障害のリスクや通信障害対策として有効な複数SIMの活用、通信障害の検知、SIMの自動切り替え等について解説いたします。

通信回線の社会インフラ化

近年、大手の通信キャリアでも大規模な通信障害が発生し、社会問題となりました。このような全国規模で長期間にわたる通信障害は多くユーザー、企業に影響を与えることからも、モバイル通信回線が社会において必要不可欠なインフラであることを改めて感じる出来事でした。また、このような大規模な通信障害が社会問題になる一方、交換機や基地局の不具合、災害等が原因となり、限られた地域で短期間、通信障害が発生することもあり、通信障害は意外にも身近な存在です。

しかし、通信障害が起きると、ありとあらゆるIoTサービスに問題が発生します。

  • オンライン決済が完了できない
  • 業務システムにアクセスできない
  • 計測中のデータが欠損してしまう
  • 機器の制御・遠隔監視ができない
  • 顧客へのサービス提供が停止してしまう

など、上記はほんの一例ですが、通信障害の影響が幅広い産業分野で広がってしまうことが分かります。

通信障害を完全になくすのは難しい一方、セルラー通信が社会インフラ化する中で通信障害が発生した際の影響が多岐にわたることから、このような通信障害への対策が各事業者において求められています。

しかしながら、通信障害を想定したシステムは意外と少ないようにも見受けられます。ハードウエアやメモリ、電源周辺に関してバックアップとして冗長性を持たせる動きは様々な産業で進んでいますが、対してネットワーク周辺に関して冗長性を確保する動きは遅れているように思えます。モバイルの通信回線がインフラとして必要不可欠となっている現場も多いことから、今一度見直しが迫られています。

モバイル回線の冗長化が特に重要となるケース

IoTの広がりとともに、様々な産業分野でモバイル回線の冗長化が重要となってきています。特に、システムの停止が幅広い影響を及ぼしうる下記のようなシーンでは、モバイル回線の冗長化が更に求められていくと予想されます。ほんの一例ではあるもののご紹介します。

インフラ施設の監視

水道施設や電力施設、鉄道などの重要なインフラ施設を管理するために、キャリア回線が使われているケースは多々あります。監視が止まってはならない重要な施設の場合、通信障害や電波障害などの不測の事態に備え、モバイル回線にも冗長性を持たせることが重要です。

ISDNの代替としてのモバイル回線

銀行のATMなどで使われているISDNは、比較的安定した回線として会社内ネットワークのバックアップなどでも利用されていますが、2024年1月の提供終了が見込まれています。高い堅牢性が求められるISDNの置き換えの場合、冗長性を確保することで、安定的な運用が可能となります。

通信障害対策を実現する「ネットワークの冗長性」

通信障害に対する一番の対策は、各事業者がネットワークに関しても冗長性のあるシステムを活用することです。例えば、メインで使っている通信キャリアとは別に、バックアップとして他のキャリアでの通信も用意しておくことで冗長性を確保できます。iphoneなどのスマートフォンでもデュアルSIM対応の機種が近年発売されていますが、このような複数のキャリア回線を活用できる端末を使うのがおすすめです。また、近年ではいわゆる「格安SIM」など少量のデータ通信を対象とした月額料金プランが安く設定されており、複数事業者との契約のハードルも低くなってきています。通信障害に対策するためには下記3つの条件をそろえることが必要です。

  • マルチキャリア対応
  • 複数SIMを搭載
  • 通信障害時に通信キャリアを自動切り替え

マルチキャリア対応

マルチキャリアとは、異なる通信事業者の運営する無線通信網や通信方式、周波数帯域を複数利用することを表します。複数の通信ネットワークを用いてネットワークの冗長性を確保するためには、通信機がマルチキャリアに対応していることが必要になります。IoT用の通信機として国内で利用されている機器のほとんどはマルチキャリアに対応していますが、特定の通信キャリア向けに提供されているIoT通信機については、SIMロックがかかっていたり、特定の通信キャリアが使用している周波数バンドにしか対応しておらず他のキャリア網で利用する場合は使える無線周波数が限定されてしまう可能性があります。ご利用の通信機がこのようなものではなく、複数の通信キャリアで利用しても十分な周波数バンドが利用可能であることをご確認の上、ご購入ください。

また、最近はSIMカード自体が複数のキャリアに接続できる便利なプランも提供されています。しかし、現在国内で使用されているIoT用のSIMカードは大部分が特定キャリアのみが利用可能なものであるため、本コラムではひとつのキャリアだけが利用可能なSIMカードを複数使用して、ネットワークの冗長化を実現する方法をご説明いたします。

マルチキャリアについては下記の記事でも解説しています。

 

複数SIMを搭載

ひとつのキャリアだけが利用可能なSIMカードを用いてネットワーク冗長化を実現する方法としては、異なる通信事業者と契約した複数のSIMカードを利用する方法が有効です。メインで使っていく主回線とは別に、何かあったときに使う副回線として別の通信事業者とも契約する形です。ただし、MVNOなどは大手キャリアの回線を使って事業を行っているケースも多いため、実際に使われている回線がどこになるのか、注意して事業者を選ぶ必要があります。

また、機器はマルチキャリアに対応しているだけでなく、複数SIMを搭載可能であることが前提となります。SIMカードが2枚以上使えるケースや、eSIMと呼ばれる、カードを物理的に差し込むのではなく端末本体にSIMの情報が埋め込まれるSIMも活用することで、複数SIMを実現するケースもあります。

通信障害を検知し、通信キャリアを自動で切り替え

複数のSIMカードを使えても、必要に応じて回線を切り替える機能が冗長化の仕組みには不可欠です。手動での変更はもちろんのこと、特に企業における活用においては、通信障害を検知し、つながる回線に自動で切り替える機能により初めて、複数SIM活用のメリットが得られるでしょう。

「通信障害の検知」についてはこの後の章で具体的にご紹介します。

「通信障害」を検知する手法

先ほど、「障害時にキャリアを自動切り替え」する機能が必要であることに触れましたが、どのように「通信障害」を検知するのか、何をもって通信障害と判断するのか、いくつかの手法がありますのでここでは3つご紹介します。ご自身の用途に合わせて比較し、いずれかの手法を選ぶ、または複数の条件を組み合わせて設定することが必要です。

パケット通信で判断する

1つ目の方法がパケット通信の有無で判断するケースです。「インターネット網と切断した場合」「〇秒間連続で通信が出来ない場合」「圏外が〇秒間続く場合」などのいずれかに該当する場合は、予備のSIMに切り替えるといった設定をするイメージです。ただし、パケット通信は切れていないけれど、データは送れないという障害の場合には対応できません。

電波強度(アンテナレベル)で判断する

モバイル通信の通信状況、いわゆる電波強度(アンテナレベル)を監視し、基準以下の状態が指定時間分経過した場合に通信を切り替える設定です。

サーバーとのpingで判断する

任意のサーバーに対し、pingと呼ばれるコマンドを送信し、それに対する戻りの有無でネットワーク通信ができているかどうかを診断します。一定間隔にpingを継続的に送信し、何回か連続でpingが通らない場合に、SIMを切り替えるような設定が可能です。

なお、pingの送信先は、各ユーザーの利用するサーバーを宛先とするケースや、各デバイスメーカーが提供している機器の管理システムを宛先にするケースなどさまざまです。

アムニモ製品の通信障害対策

アムニモの製品は、複数SIMの自動切り替えによりネットワークの冗長性を確保しながらも、できるだけコストを抑えた製品設計となっている点が最大の特長です。

  • マルチキャリア対応:大手3キャリアのLTE回線は認証済み
  • 複数SIM搭載可能:SIMカード2枚とeSIM2枚、合わせて4枚装着可能
  • 通信モジュールは共通化し、キャリアのみを切り替えることでコスト減を達成

SIMの自動切り替えの仕組み

アムニモの製品では、メイン回線の接続断を検知した後、約15~20秒程度で自動でサブ回線のSIMに切り替え、通信を早期に復旧できます。リブートもなしにダウンタイムを最小に抑え、通信障害を克服することが可能です。メイン回線の接続断の検出については下記の方法から選択できます。

【基本の検出機能】
  • 切断検出機能:アタッチ要求、呼び出し要求が成功しなかったことを検出
【オプションで追加可能な検出機能】
  • RSSI値(電波強度)による検出
  • 無通信検知機能:一定時間のあいだ無通信状態が継続したことを検出

また、優先度が低い回線を使っている場合にその回線を使い続けないようにするため、タイマー、またはRSSI値を基に接続優先度の高いSIMへ切り戻す事が可能です。

SIMの自動切り替えの詳しい内容・設定方法は下記サポート記事をご参照ください。

アムニモサイト運営事務局
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