その他

AIを使った人流・属性計測のデータを分析し、地元商店街の活性化へ

“システムの安定稼働により、
価値のあるデータを十分に収集できます。”

— 桜美林大学 山口有次 先生 川﨑 昌 先生 新大久保商店街振興組合 武田一義 様 —
業界
大学・教育機関
製品
IoTルーター(屋外版)AR20
使用用途
「地元地域活性化」を目的としたAIを活用した人流計測
課題
  • 機器が大きく、設置場所を選ぶ場合がある
  • 設置に制約が多いと、精度の高いデータを取得しにくい
  • データがとれない期間があると、データの価値が下がってしまう
導入の効果
  • 小型化された機器により、計測に適した箇所に柔軟に設置
  • ハード・ソフト両面から高い耐久性を持つ機械で安心。
  • システムの安定稼働により、価値のあるデータを十分に収集。

概要:地元商店街と連携した実践型の研究

桜美林大学のビジネスマネジメント学群は、経営学や商学を学ぶ学部で、特に「実践教育」に重きを置き、企業や地域と連携した研究や取り組みを多数行っています。このような「実践教育」を重視する大学のポリシーから、地元との関係性づくりにも力を入れており、特に新大久保商店街振興組合が先進的な取り組みに積極的であったことから、地域に還元できるような様々な研究を新大久保商店街振興組合の協力を得ながら進めています。今回、ご紹介するAIカメラによる人流・属性計測の取り組みも、新大久保商店街振興組合のご協力を得て実現しました。

今回の取り組みに至った背景には、データサイエンスやAI等が注目される中、文系の学生も理系的な考え方やデータ活用を積極的に学ぶべきではないか、という観点がありました。実際、本取り組みは、2022年に文部科学省・大学改革推進等補助金の「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DX をけん引する高度専門人材育成事業」において、「来客・店舗データ等を高度に活用する中小規模第三次産業の DX 化推進人材養成プログラム」として採択され、現在注目を集めています。

こうして、データを活用して商店街の魅力を対外的にもアピールしたいという新大久保商店街振興組合の思いも重なり、人流・属性のデータを収集・活用する取り組みが、2019年よりスタートしました。

導入の目的:AIカメラを使った人流・属性の計測で研究の効率化と成果向上

AIカメラを使って商店街の人流・属性を計測

今回の取り組みでは、人流・属性の計測にNECソリューションイノベータ株式会社の人物像分析システム「FieldAnalyst」が採用されました。本システムは、映像データをAIが分析し、人の入退場(人物カウント)、時刻、人物の性別・年齢等の情報を取得できるシステムです。画像を録画せず計測値のみ保存するため、プライバシー保護に配慮した計測を実現できます。今回の事例では、本AIソフトはIPカメラ上で動作しています。アムニモのIoTルーターは、そのIPカメラへのPoE給電を行い、さらに映像データとAI処理結果をモバイル通信で送信する役割を果たします。そして、送信されたデータは、クラウドに蓄積され、PC等で閲覧できるようになります。

桜美林システムフロー

効率的なデータ取集でより効果的な研究へ

そもそも、社会科学系の研究ではデータを集める際、アンケート調査やインタビュー調査が基本となります。調査では、一人ひとりの詳しい状況や背景まで把握できる一方、サンプル数が少ないことが課題です。しかし、今回人流計測のカメラ設置によって自然と大量のデータを蓄積できることは、システム導入の大きなメリットでした。データが様々な形で蓄積され、データ量が増えていくと、それだけ価値ある分析ができる可能性が高まります。また、瞬時に蓄積されるデータが多ければ多いほど、価値あるデータ・分析となります。

実際、蓄積されたデータを学生が解析し、データを駆使した学習を行っています。このようなデータを、学生だけでなく、お店の方、商店街の方、卸業者の方にも見ていただいて、さらなる学びにつながるよう取り組んでいます。

若年層に商店街を楽しんでもらうための仕掛けづくりへ

「商店街の来場者については、今までほとんど調査ができていなかったのが実情でした。」と話すのは、新大久保商店街振興組合、事務局長の武田様です。しかし、2019年、人流計測カメラ設置前に桜美林大学の学生が、将来的にカメラで計測するデータと比較するため、アンケート調査を行いました。その調査では、1000人近くから回答があり、平日・休日の違いや、リピーターの割合などを知ることができました。駅の利用者数等は鉄道会社から教えていただいているものの、人の流れやリピート率等は分かっていなかったため、データの有効性を改めて実感することとなりました。

また、新大久保商店街振興組合は、お客様の属性がここ20年で大きく変わった商店街でもあります。冬のソナタなどの韓国ドラマが流行した頃は比較的年齢層も高めでしたが、K-Popの流行と共に年齢層がぐっと下がりました。特に近年は韓国コスメのお店も増え、今や若い方が中心の町になっています。そのため、若い方に楽しんでもらうための仕掛けが必要だと考えています。そのため、今回のデータを活用し、新大久保商店街にどのような属性の方がどれくらい訪れているのかを外部の方にもアピールし、楽しんでいただくための仕掛け・投資をさらに増やしていきたいです。

導入の効果:データを安定的に取得することで、データの価値を守る

今回、アムニモのIoTルーター(屋外版)は、この度の人流計測システムで活用されました。アムニモのIoTルーターのメリットを一部ご紹介します。

1.小型化された機器により、計測に適した箇所に柔軟に設置

「屋外における設置において最も苦労する点は、設置場所確保です。」と話すのは、人流計測システムを構築されたNECソリューションイノベータの浜崎様です。今回の導入では、新大久保商店街振興組合様のご協力で設置に適した場所を提供いただいた点と、アムニモの小型化された屋外対応のルーターが役に立ちました。
以前は、屋外で安定的にシステムを稼働させるために、温度調節機能等が付いた大きなボックスに機器を搭載し、その設置場所を確保する必要がありました。設置候補が見つかっても強度の問題で設置ができないこと等も発生し、設置場所を探すのに半年以上かかるケースもありました。
特にAIを使って属性を計測するには、人物を適切に撮影することが、精度の向上において非常に重要です。街中で人物を適切に撮影できる場所は限られているため、遠くから撮影することでなるべく正面になるよう角度を工夫することもあります。しかし、解像度の低さや障害物が入り、上手く撮影できないことも多々あります。
そのため、設置場所を選ばず柔軟に設置できるシステムであることは、より精度の高いシステムを迅速に導入する上で、非常に重要です。これはアムニモの小型で屋外に対応したIoTルーターがあってこそ実現できたと思います。

2.ハード・ソフト両面から高い耐久性を持つ機械で安心

また、アムニモのIoTルーターは、そのような小型な設計にも関わらず、屋外での連続稼働に耐えられる高い耐環境性を持っています。システム面でのセキュリティの高さと合わせて、ハード・ソフト両面から高い耐久性を有しているため、安心して使うことができています。

3.システムの安定稼働により、価値のあるデータを十分に収集

「システムが安定的に稼働できるというのは極めて重要です。」と指摘するのは桜美林大学の川﨑先生です。データ解析の専門家として最も困ってしまうのは、データが取れない期間が出てきてしまうことです。データの欠損があると、データの価値が、ぐっと下がってしまいます。安定的にデータ収集ができるというのは、一見当たり前にも思えますが、非常に重要です。

カメラ・ルーター設置写真

今後の展望:データを「組み合わせ」で分析し、商店街の活性化へ

他のデータと組み合わせた分析がカギ

解析の際、やはり重要となってくるのが「情報の組み合わせ」です。有効な分析結果を得るためには、今回集めた人流・属性計測のデータを何かと掛け合わせる必要があります。

人流のデータのみの場合、土日での変化や時間帯の変化等を発見することはできますが、そういった変化が何と関連しているのかを調べるには、やはり人流データだけでは不十分です。気象データや駅利用者数のデータ、イベント情報など、データの種類が増えれば増えるほど、データを「探索」するなかで価値あるものを見つけられます。現在は天気や属性情報を組み合わせて分析を行っていますが、今後は商店街の方のご協力を得ながら店舗の情報等も人流・属性計測のデータと組み合わせて、「データの探索」を引き続き行い、有効な分析結果を導き出したいです。

また、現在測定している年齢や性別等だけでなく、AIで測定できるデータの種類が増えていくことにも期待しています。例えば、キャリーバッグを持っている方を計測することで、外国人観光客の数を計測できるかもしれません。また、歩いている2人の関係性によって2人の間の距離が変わることも、山口先生の研究では明らかになっています。カップルの距離感が最も近く、その次に友人、そして仕事関係やなんと夫婦関係は距離が遠くなる傾向にあります。このような距離を測ることによって、訪れた方同士の関係を予測するような取り組みも面白いのではないでしょうか。顔だけでなく行動等に関係ある情報が増えると組み合わせの幅がさらに広がります。

分析結果を活用し、より魅力的な街として対外的にアピール

また、商店街において分析結果を生かすために重要になってくるのは、外部への情報公開だと考えています。人流計測のデータを公開することで街に興味を持つ人が増え、データがリニューアルや投資を行うための判断材料になると、街の活性化につながると考えています。例えば、商店街の活性化には、新商品の発売やイベントの開催等も有効です。このようなイベントを誘致するには、どのような属性の人がどれくらい集まり、なぜそこに人が集まるかまで含め、外部に公開することが重要です。このようなアピールは投資などを呼び込む効果も期待できると思います。商店街を盛り上げるためには、やはり外部の力が必要不可欠で、より多くの方に興味を持ってもらうことが重要だと考えています。

他の商店街への発展・訴求

さらに、今後はこのような取り組みを他の商店街にも広げていきたいと考えています。実際、新大久保商店街振興組合様のご協力の元、同様に原宿でもカメラを活用した人流計測を桜美林大学が行っています。 地方なども含め同じような課題を持った商店街は、沢山あるはずです。そのため、一か所だけでなく、他の商店街でもこのようなAIカメラでの人流計測の取り組みを行うことで、各商店街間での比較等も含め、より相乗的な価値を期待しています。

「実践教育」により学生のスキルアップへ

今回収集するデータは商店街の活性化はもちろんですが、教育にも活用できるデータです。学生には、今回のような実戦型の演習を通じて企業の方と積極的なコミュニケーションをとり、このような学びを今後の社会人生活でも生かしてほしいと考えています。 実際、人流計測のカメラで得た情報を元に、ビジネス化できるような起業に取り組む学生もいます。データを分析するだけでなく、具体的な改善策も含めて提案し、新大久保商店街だけでなく、他の商店街にも展開してほしいと考えています。1つでも事例となり成果が見えてくれば自然と広がっていき、地元や商店街だけでなく、企業の方にも興味を持っていただけると考えています。

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